現地レポート
サン・ジャコモ 2019年2月
2月上旬。エミリア・ロマーニャ州レッジョ・エミリアにある、バルサミコ酢生産者<アンティカ アチェタイア サン・ジャコモ>を訪問しました。
ミラノ中央駅から高速鉄道で約40分、最寄り駅のAVメディオパダーナ駅で、オーナー、アンドレア・ベッツェッキさんと待ち合わせ。落ち着いた印象のアンドレアさんは、何度も日本にも来たことがあるという親日派。アチェタイア(醸造所)までの約20分間、ブドウ畑が続く道を車で走りながら、バルサミコ酢について説明してくれました。
「バルサミコの原材料は、モスト・クルード(生ブドウジュース)だけ。ブドウはすべてレッジョ・エミリア県産で、ブドウ品種としては、ランブルスコ種、トレッビアーノ種、赤い色素の強いアンチェロッタ種の3種がメインだね。アグロ・ディ・モストは、ランブルスコ・マラーニとランブルスコ・マエストリ、アンチェロッタで80~90%になるかな。品種の配合は毎年同じって訳じゃないんだよ。年によって作柄も違ってくるので、その年その年のベストな配合を考えなきゃいけないんだ。ランブルスコ種は面白い品種で、その昔は100種類以上もクローンがあったんだけど、今、残っているのは約10種類程度かな。残念な話だね。」
運転しながら、丁寧に説明を続けるアンドレアさん。
「このモスト・クルードを、ガスの直火にかけて、90~95℃の温度で約12時間加熱し、60%~70%まで煮詰めたものがモスト・コット(加熱濃縮ブドウジュース)。アグロ・ディ・モストは、このモスト・コットを大樽で酸化させ、約2年熟成させたものなんだよ。」
「熟成約8年のエッセンツァは、アグロ・ディ・モストと全く同じブドウで作られているんだけど、もっと小さな木樽で熟成させることで、アグロ・ディ・モストより濃厚で、緻密なバルサミコに仕上げているんだ。」
イタリア語の説明を集中して聞いていると、あっという間にアチェタイアに到着。見晴らしのいい景色の中に、エミリア・ロマーニャらしい大きな建物がありました。オフィスとアチェタイア、2棟の連結部分には見学者用に分かりやすく説明が書かれた壁画があります。
「今日も午後から小学校の生徒さんが見学に来るんだ。」
そもそもバルサミコ酢とはという話になると、アンドレアさんの説明にも俄然熱が入ります。
「Aceto Balsamico Tradizionale DOP(伝統的製法のバルサミコ酢)は、世界でも2つの街、レッジョ・エミリアとモデナだけで作られています。歴史的には、この2つの街も、エステ家の中の一つのコムーネ(共同体)だったんだけど、今は同僚であり、尚且つライバルってところかな。」
「レッジョ・エミリアでは、熟成12年以上のアラゴスタ(レッドラべル)、20年以上のアルジェント(シルバーラベル)、25年以上のオーロ(ゴールドラベル)があります。モデナは12年と25年だね。両方とも100%モスト・コットからできているけど、味的にはモデナの方が少し甘いかな。」
「日本でもスーパーマ-ケットで、Aceto Balsamico di Modenaってラベルをよく目にすると思うけど、これはIGPの量産品で、これに比べるとDOPのAceto Balsamico Tradizionaleは、バルサミコ酢の生産量全体の0.0001%しかないんだよ。Aceto Balsamico Tradizionaleがどれだけ貴重かわかるといいんだけど。」
屋外での説明が終わると、アチェタイアの一階に移動します。
「ここで、モスト・コットを樽に入れて発酵・酸化させています。モスコットはまずアルコールに変わり(一次発酵)、その後、アルコールがヴィネガーへと変わります(ニ次発酵)。酸化を促すために、樽は完全に蓋をせず、上部の穴に、布一枚を被せ、蓋は重し程度に軽く乗せるだけです。」
奥には、「バルサメーラ」用のステンレスタンクが見えました。
「リンゴ本来の香りと味を生かすために、木樽ではなくステンレスタンクで発酵と酸化をさせているんだ」
原材料のりんごは、北イタリアのトレンティーノ・アルトアディジェ産、ビオディナミ栽培のピンク、ゴールデン、エンヴィという品種を使用しているそうです。
「バルサメーラ」は、生りんごジュース(りんご版のモストクルード)から作ったりんご酢に、りんご果汁を煮詰めたもの(りんご版のモスト・コット)をブレンドして作られています。
2階は熟成庫で、天井にはIl tempo(時間)と書かれたボードが吊るされています。バルサミコ酢には時間こそが最も大切な要素ということを表しています。見学に来る子供たちにも分かりやすそうです。
「木樽は、異なる木材のエッセンスをバルサミコ酢に加えています。最も頻繁に使用しているのが、オークと栗です。トリネコ、アカシア、桑(現在では珍しい)、桜、ジュニパーの7種類を使用しています。これは生産者によって使用する順番が変わります。桜や桑、ジュニパー、トリネコは比較的初期や中期に使用することが多いかな。グラッパで使った樽を使うこともあります。」
この場所には2年から50年くらい熟成されたバルサミコが眠っています。一体いくつの樽が眠っているのでしょうか。
2階の熟成庫から、1階に移動し、サンジャコモの伝統製法のバルサミコ酢のラインナップを見せてくれました。
既に説明のあった熟成12年以上のアラゴスタ(レッドラべル)、20年以上のアルジェント(シルバーラベル)、25年以上のオーロ(ゴールドラベル)です。
お隣のテイスティングルームに移ると、サンジャコモのヴィネガーのラインナップと、アンドレアさんの世界のお酢のコレクションが並んでいました。もちろん日本のお酢もありました。
お昼に行く前に、通り道沿いにあるパルミジャーノ・レッジャーノの工房の見学も。そう、まさにここはパルミジャーノ・レッジャーノのお膝元でありました。ゆえにパルミジャーノ・レッジャーノにも造詣が深いアンドレアさん。資格も取得中だそうです。
アンドレアさんのお兄さんが経営するバール Bar Romaにてランチ。
イタリアで有名な食とワインの雑誌、ガンベロロッソでイタリアバール・ベストテンの常連のこのバールでは、サンジャコモの製品を使ったお料理がカジュアルに楽しめます。
Aceto Balsamico Tradizionaleをパルミジャーノ・レッジャーノチーズにかけたり、ホウレンソウ入りラヴィオリにエッセンツァをかけたり、バニラのジェラートには熟成12年以上のアラゴスタ(レッドラべル)をかけたり。バールでこのランチ、さすがは美食の街レッジョ・エミリアだなと驚いたのでした。